臨時休業のお知らせ
仙巌園・尚古集成館では、新型コロナウイルス感染拡大を受け、令和3年6月30(水)まで休業いたします。

名君・島津斉彬公と、その母

知と武を兼ね備える賢夫人・周子さま

島津斉彬公

大河ドラマや映画に、島津斉彬公(以下斉彬)が登場するという情報が入ると「俳優さんは?」「雰囲気は?」「どういった描かれ方だろうか」と、島津家別邸・仙巌園の中は、にわかに活気づきます。実際に斉彬が足を運び、やすらぎの時間を過ごした場所で働く者からすると、他人ごととは到底思えず、気持ちがたかまるものです。

さて今回は、「翔ぶが如く」「篤姫」「西郷どん」などの鹿児島を舞台とした作品だけではなく、渋沢栄一が主役の「青天を衝け」にも登場する斉彬と、彼に影響を与えた母について書きたいと思います。

島津斉彬について

島津斉彬は、文化6年(1809)薩摩藩主島津斉興と鳥取藩主池田治道の娘・弥姫の長男として生を受けました。

彼は、植民地化政策を進める西欧列強のアジア進出に強い危機感をいだき、西欧の科学技術・諸制度を導入して、日本を西欧列強のような国に生まれ変わらせたいと考えました。藩主となった斉彬は、鹿児島の磯に「集成館」という工場群を築き、ここを中核に製鉄・造砲・造船・紡績・ガラス・印刷・写真・食品加工等多岐にわたる事業を展開します。西欧列強の強さを冷静に分析し、日本は軍事面だけでなく、民需・社会基盤整備など幅広い分野に及んで近代化が必要だと考えたのです。「外国を打ち払え」という攘夷論に対しては「無謀の大和魂の議論」(安政4年4月9日付早川五郎兵衛宛書状)と一蹴し、日本がまとまるには「第一人の和、継て諸御手当」(安政5年5月28日付幕府宛建白書)と記しています。人の和を作るために、産業を興し、社会基盤を整備して、末々の者まで豊かな暮らしができるようにと訴えたのです。また斉彬は、身分にかかわらず優秀な人物を登用したため、西郷隆盛をはじめとするさまざまな人材が、薩摩から輩出されました。このことも、近代化の成功に影響しています。

斉彬に関しては、尚古集成館や仙巌園内の鹿児島世界文化遺産オリエンテーションセンター、照國神社にて、その功績を展示していますので、ぜひ足をお運びください。

〇尚古集成館ホームページ
http://www.shuseikan.jp/history/index.html
〇照國神社ホームページ
http://www.terukunijinja.jp/

名君のベースには、母の影響

斉彬は、さまざまな事業を同時並行で進め、蘭学者の松木弘安(寺島宗則)からは「二つ頭脳があるようだ…」という意味で「二つ頭(びんた)」と称されました。今でいうマルチタスク能力が高かったということでしょう。

そんな斉彬に影響を与えた人物として有名なのが、曾祖父の重豪です。彼も海外の文物に目を向け、学校(藩校)造士館、演武館をひらき、天文観測所・明時館で暦をつくるなど、多くの新規事業に取り組んだ人物です。

同時に、斉彬の母・周子(かねこ)も斉彬の人格形成に多大な影響を与えた人物と言えます。周子は弥姫(いよひめ)様とも呼ばれ、のちに賢章院様という法名でも呼ばれました。こちらの文章では、周子と表します。

周子は、鳥取藩主・池田治道の娘として生を受け、島津斉興のもとへ輿入れしました。その際、周子は嫁入り道具として、大量の書籍を持ち込みました、その中には、漢籍である「四書五経」「左伝」「史記」等が含まれていたといいます。和歌などの才にも秀で、薩摩藩の家臣たちからも「賢夫人」と呼ばれ、慕われています(「賢章院遺芳録」)。さらに、具足の入った鎧櫃(よろいびつ)も嫁入り道具にあり、驚いた島津側の役人が理由を尋ねたところ、

「島津家は武の国であると聞いています。太守がもし不在のときに、万一のことが起こったら、私は御名代を務めなければならないかもしれません。その用意です」

と答えたと伝えられています。万一のときに備えて、自分の鎧を準備するお姫様とは、肝が据わっていますね。

周子は文化6年(1809)に斉彬公を出産しました。当時、藩主など、身分のある人の子は、乳母が育てることが一般的でした。しかし周子はそれをせず、自ら乳を与え、おむつのとりかえはもちろん、一切の養育をおこないました。また、斉彬が6~7歳になると、自身が得意とする漢籍の素読をはじめ、和歌や絵を教えています。現在の小学校1年生にあたる年齢の子どもに「四書五経」を説いて聞かせたとは、驚きですね。斉彬はその愛情に応えるように、川崎大師に参詣した際、母に椿の花を持って帰ったそうです。周子はこれを喜び、和歌を詠みました。
   
とをき道に遊ぶ身ながらわすれえぬ 孝の一字ぞげに類ひなき(尚古集成館所蔵)

自分の持つ知識を惜しみなく与え、斉彬に深い愛を注いだ母。「第一人の和」を唱え、人材登用に長けた斉彬について考えるときに、忘れてはならない人物です。

小平田 史穂

尚古集成館学芸員
鹿児島大学法文学部卒業。放送大学非常勤講師 等
南日本文学賞詩部門受賞。鹿児島県文化芸術振興審議会委員

著作

『みんなの西郷さん』
『復刻版 炉辺南国記』尚古集成館、山形屋にて販売

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